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01/02/03/04
- 11. 馬鹿とメガネとマスコット
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「うお」
「あぁ?」
図面から目を外して振り返ると、変なポーズ(足をちょっと曲げた状態で開いて腕を若干後ろだかに上げたような)で立ち尽くす馬鹿がいた。
「何で伊織がこんなトコいんの」
「お前は何で」
「悒が手伝えってゆうから来たんじゃん!」
「俺言ったか、そんな事」
「自分の発言には責任持てよ!」
叫びながら、馬鹿こと俺の親友気取りな聖(これでキヨと読む)君は手にしていたコンビニの袋を渡してくる。
「差し入れか?珍しく気が利くじゃないか」
「オメェが“芋けんぴ食いたい。買ってこい”とか無愛想なメール寄越すから買ってきてやったんだろーがよぉぉ!!!!」
「あ?そうだっけか」
「そうだよ!見ろ!今すぐ携帯の送信履歴を!」
「あー、やべぇ。俺あんま好きくない奴とかに送ったメール消しちゃうタイプ」
「テメェはオレの何だぁあ!?」
「うるさいぞキヨ。伊織が起きる」
「そこで近所迷惑って言わないところが悒さんですよね」
何故か敬語になりながらも、静かになったキヨ(何だかんだ言って芋けんぴを買ってくるパシリ体質)は床へ目を向ける。
毛布を敷いてクッションを敷き詰め、ぬいぐるみを抱いて毛布に包まって眠る、人間へ。
「で、何で伊織がいんの?」
「こいつは、行くとこが無いから俺のところに来る」
「へー。ちゃっかり自分スペース作ってる辺り入り浸り?」
「便利だぞ、家事するし」
「行くトコ無いならオレが嫁に貰ってやるのにー」
「行かないだろうな」
男のくせに女みたいな名前で顔まで女みたいな伊織は、不細工だけど触り心地は抜群なでかいぬいぐるみを抱き締め、こちらの事など知らずに平和に寝転けている。
「オレ幸せにしちゃうよ?」
「ふぅん」
「金には困らないようにするし仕事早く帰ってくるし夜だって満足させちゃうよ?!ギャッ、言っちゃった!!」
「へぇ、そりゃ楽しそうだ良かったな」
「それ棒読みぃぃー!!!!」
眼鏡を掛け直して図面に向き直ると、キヨが再度騒ぎだしたので仕方なく振り返ってやる。
「あーあー判った。何だ…お前の脳味噌が困った事になってる話?」
「違いますけど!」
「……うっさ……」
あんまり騒ぎ過ぎたのか、そこでようやく伊織が身を起こした。
「おはよう伊織」
「おはよ、悒…」
「伊織、オレもオレも」
「……悒、この煩い生き物何?」
「キヨランガ星人と言って、騒いでないと死んでしまう生き物だ。因みに辛辣な言葉を投げ掛けてやると喜ぶ。一番好きなプレイは放置だ」
「うっわー、気持ち悪ぃー」
「爽やかな笑顔で?!!!」
「死ねば良いのに!」
「ちょっ…面と向かってホントに辛辣!しかも顔見知りなのに悒の言う事鵜呑みでノータッチィー!!!!」
ヒド過ぎるー!と喚いているキヨだが、その顔はどこか嬉しそうに見える。あれか、Mなんだな。気持ち悪い。伊織はと言えば、笑顔だが目が笑ってない。
「良かったな、キヨ。伊織に構ってもらえて」
「え、何それ。一番好きなの放置プレイって聞いたから無理して構ってたのに」
「うわーん!お前らSだ!生粋のドSだ!」
「ちょ、キヨ触らないで」
「帰れ」
「帰るよ!もう呼ばれたって来てやらないからな!」
「おめでとう」
「わーいやったー」
「そんな拍手全然嬉しくない!」
騒ぐだけ騒いで、キヨは涙をちょちょ切れさせながら駆け出していった。
「…ん、そいえば何でキヨがいたの?」
「え?あー…あ、図面描きの仕事手伝わせようと思ってたんだった。メールしよう」
「アイツまた来るんだー」
最初に戻る。
イラスト置き場の漫画モドキの元です。
- 12. だから妥協だと。
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「思い出に縋って生きるなんて愚かだと思う?」
それは自分に対し投げ掛けられたものなのか、はたまた彼自身が自問しているものなのかは判別がつかなかったが、とりあえず答える事にした。
「…別に。人間というこの世で一番愚かな生き物に生まれたんだから、愚かなのはそれに限った事じゃない」
「じゃあ、悒はそのライン上だって言って妥協して色々容していくの?」
「容す、容すか…まぁ、初めからさして期待していない世界を更に諦めてゆく、というのが正しいか。容すなんて濁さなくてもいい」
また、不毛な話が始まった。考えながらも、悒は時間を流すには丁度良いと何も言わなかった。
(…ああ、これか)
それこそが、彼の、伊織の言う妥協だと、悒は気が付いた。
訳が分からぬ。
- 13. 彼もまた、人間。
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どうしよう。
食らい付いた喉笛があんまり甘くて哀しくなった。
どうしよう、今ここから牙を放したらこの子供は死んでしまう。
どうしたらいい。
彼は子供を殺したくはなかった。かといって、このままいる訳にもいかなかった。
愛している。この子供を。
彼は吸血鬼であったけれども、してはいけない事にしてしまってから気付く点に於いて、確かに人間であった。
「どうして俺を取り入れたの」
それから、何年か、何十年か。
彼は膝を抱えて座り込み、小さな背中をこちらに向けたまま尋ねた。
拗ねたような響きに苦笑しながら、眩しいものを見る目で吸血鬼はいつも通りにこう答えた。
「愛しているからだよ」
だから殺せなかったから。これは内心で呟く。
よく先のように尋ねる彼は変わらないその答えに満足したのか、少しだけ振り向いてえへへと笑った。
「ウソツキ」
彼の答えも、またずっと変わらなかった。
吸血鬼ネタってありがちですよね。
- 14. 鳥が嫌いな彼女
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「きゃあぁぁあっ!!」
頭上を通過した鳥に、叫び声を上げた彼女は両手で頭を抱えながらしゃがみこんだ。目はしっかり閉じている。
「…通っただけだろうが」
「いや、いやっ!信じらんない、何でよりによって私の上を飛ぶの?!意味解んないし!てゆーか街中飛ぶな!歩けぇっ!」
「鳥の飛ぶ場所を奪うな」
「貴月はいいよね、だって上を飛ばれてないんだから!」
依然として先程の姿勢のままにきゃんきゃん煩い少女から目を逸らし、貴月と呼ばれた青年は溜息を落とした。
鳥類恐怖症。竦み上がる割に怒っている姿を見ると“恐怖症”というのには些か語弊があるようにも思えるが…恐がっているのは本当なので、一先ずそうなのだ(例え理由が頭に糞を落とされたというものであっても)。
「…夢祈(ゆめき)、いつまでそうやってるつもりだ。行くぞ」
「やーだーっ…鳥恐いぃ〜…」
「夢祈。俺は遅刻したくねぇからな。置いていくぞ」
「やーっ!やだ、貴月置いてっちゃやだー!」
立たせようと掴んでいた手を離すと、途端に顔を上げた夢祈が縋り付く。確信的にやった事なので、貴月は内心やはり、と思いながら彼女を立ち上がらせた。
「ほら、歩けバカ」
「ば、バカって何よぅ…」
「自覚が無いのは重傷だったか?…おい、余りくっつくな」
「ちょっとぐらい良いでしょーが…貴月のケチ。ケチんぼ!ケチオヤジ!」
「俺はまだオヤジじゃねぇ!てめぇと同い年だろうがふざけんな!」
「喋り口調がオヤジ臭いんだもんー!」
さり気なく寄り添ってくる夢祈を離そうとすると、余計に引っ付いてくる。
やだやだ鳥恐い。必死にしがみ付き涙目になる彼女を見ていると、ふと昔を思い出した。
五年前、あれは二人が中二の時。
貴月は珍しくも、「遊びに連れてってやる」と実に尊大な態度で夢祈を隣家まで迎えに行き、無邪気に喜ぶ彼女を電車に乗せ、………鳥類園へ。
悪気はなかった。いい加減、鳥に糞を落とされたなんて下らない理由のトラウマを克服させようと思ったのだ。……確かに少し面白がっていたが。
しかし彼女のトラウマは予想以上に根深く、何とか励まし入場したものの、結果として余計に悪化させただけで帰ってくる羽目となった。
以来、―いくら貴月といえど鬼ではないので―一抹の責任を感じ、彼は夢祈の鳥恐怖症に関しては甘やかしたりしている。
「ひぃいゃあっ!」
もう何が何だか解らない叫び声を上げて抱き付いてくる夢祈を片腕で受け止めつつ、何事かと貴月は思考から浮上した。
顔を上げれば、鳥の大群がぎゃあぎゃあ鳴きながらこちら(の頭上高く)を目指して飛んでくる。下を見れば、何故か念仏を唱え震える夢祈。
はぁと息を吐き、華奢な肩に手を置いた貴月は彼女を引き離した。
「ひゃっ、き、づき…ッ?!」
怯えた瞳が自分を映す前に、貴月は着ていた上着を夢祈の頭に被せる。戸惑う彼女に構わず、その頭をぐいと引き寄せ歩きだした。
「き、貴月っ…前見えな、よ…?」
「煩ぇ。屋根の在る所まで我慢しやがれ」
「ん、…ん?」
「…これなら鳥は見えねぇし、糞落とされてもお前には付かねぇだろ」
「ぁ……」
物分かりの悪い奴。ぼやいて教えると、一瞬ぽかんとしたらしい夢祈が、そっと貴月へ寄り添った。
「……うん。これなら恐くないよ…」
薄く頬を染めた彼女は幸せそうに口元を緩めたのだが、上着に隠されたそれを、貴月が知る事はついぞ無いのだった。
夏場は、地元に、鳥が、多くて。(怖かった)
- 15. 嵐の夜に
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――僕らには時間が足りない。
それがあの人には解らない。きっと僕らにしか解らない。
この深く根付いた気持ちは、あの人には理解が出来ないと思う。
僕らは手を繋ぐ訳でもないけれど、時間を共有しないといけない。欲じゃない。半ば義務だ。
僕の中の優先順位はあの人には解せないもの。分かっている。だからあの人の何故には答えなかった。…曖昧に笑って、家を飛び出した。
「……来た」
荒い息のままで叩いた扉から、くわえ煙草の彼が出迎える。単語で告げると、僕の頭から爪先まで眺めて彼は口角を上げて笑った。
「馬鹿だな。嵐の中を走ってくる奴があるか」
「だって、惜しいだろ」
「時間が?」
「時間が」
真剣に言えば、益々笑みを濃くした彼が荷物を奪い、腕を掴むと中へ引っ張り込む。
「風呂は沸いてる。しっかり温まれよ」
何だ、やっぱり予測してたんじゃん。
背を向ける彼へ歯を噛み締める様に笑って、勝手知ったる家のバスルームへ足を運んだ。
そうまでしてでも逢いたいんだ。
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